めし

初仕事のコンピュータは『MS−140』という名前のミニコンピューターだった。
ミニと聞くと手のひら位の大きさかと思うが、MS−140は人の背丈ほどもある。
ミニというのは大型汎用コンピューターという、ビルのワンフロアーいっぱいのコンピューターに
対してミニコンピューターと呼ぶらしい。
こいつの電源を入れる儀式がかっこいい。
本体に鍵を差し込みひねると、真っ赤なLEDの数字が点り、ファンの音が唸り始め、
腰の高さくらいあるハードディスク装置が脱水中の洗濯機のように回り始める。
実に男らしいコンピューターだった。
そのコンピューターの立派さとは裏腹に、私たちの机がある外注ルームは狭くて小さかった。
基本的に外部の人間なので、NECの社員と机を並べられる身分ではないのだが、
そこに座っていると早く帰りたくなった。
あと、社員食堂の飯は不味かった。
いまは旨くなったかもしれないが当時は厳しかった。
たぶん、その部署のある、NEC矢向だけが不味いのだろうと思う。
めしに関していえば、後日行くことになる横川北辰電気という工場の中の食堂の方がうまかった。
組合がしっかりしていて、しかも働き盛りの人のための食事だからだと思った。
NECは外出の手続きが面倒なので、残業時の夕食はさらに悲惨になる。
夜の食堂はうどんとそばとカレーとコロッケ定食だけのメニューだった。
しかも、コロッケ定食は早い者勝ちで残りの人たちは泣いた。
購買部にいくとNECのテレビが売っていたが、買う人は見かけなかった。

つぎ

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