アナログパレット

この頃のグラフィックはまだ、黒・青・赤・紫・緑・水色・黄色・白
の八色だけで描くことしか許されなかった。
これはPC8801のグラフィック機能の制限から来る物であった。
この色の制限もアニメーターを不快にさせる要因であった。
美しい肌色が出ないのは人物を描くにはつらい。
八色制限の中で肌色を出す方法としては赤と黄色と白を交互に点描していく。
すると遠目にそれぞれの色の輝きが混ざり合って肌色に見えるわけである。
近めに見ると点が打ってあるだけなのでザラザラに見えて、
発色もギラギラ、美しい肌色にはほど遠かった。

私はグラフィックのアナログパレット機能を使ってみたいと申し出た。
これはPC8801SRから拡張されたグラフィック機能で、
たとえば、黒・青・赤・暗い肌色・明るい肌色・暗い茶色・明るい茶色・白
といった具合に色の調整が出来るようになっている。
色は4096色から選べるので、夜の風景を描きたいときには
黒・暗い青・普通の青・明るい青・暗い橙色・暗い水色・黄色・白
として使えば美しい夜景が描ける。
ところが古いタイプのモニターに黒・青・赤・紫・緑・水色・黄色・白
しか発色できないものがあった。
当時の多発色のモニター、アナログモニターは高額な買い物で15万円位した。
一方で新製品を買うユーザーはアナログモニターを買うのが普通だったので、
アナログパレット機能をフルに使うかどうかは微妙だった。

TさんとOさんは色を使いたがったので、プログラマと相談して
八色用のパレットと4096色用のパレットの二種類を私が紙に描いて渡すことで決まった。
結果としてこの選択は正解であった。
他社が固定の八色で絵を作っていたのに対して、ヴァリス2では自然な色を使ったので
雑誌映えがしてかなり差がついた。

この会社はスケジュールに関してかなりきつかった。
私はグラフィックを描き続けたがスケジュールに追いつかず、
会社に寝泊まりすることも頻繁であった。
原画で頑張ったのはTさんとOさんであった。
Tさんは量産の効くアニメーターで土壇場に強かった。
Tさんが家から大きなライトテーブルを持ち込み、そこだけアニメスタジオのようになった。
私はアニメーターに憧れを持っていたので、その作画風景をじっくり堪能した。
原画は紙に鉛筆で描いた絵であるため、コンピュータに取り込まなければいけない。
それにはスキャナーという機械を使う。
私はスキャナーの上で絵がずれないようにするためタップをセロテープで貼り付けた。
タップとは原画の紙に空いた穴を利用して固定するための道具である。
アニメーションはたとえば20枚くらいの原画用紙を重ねて動く絵を描くために
束ねたときにずれないように紙にあけた穴で合わせる。
このとき張り付けたタップは王立宇宙軍の作画に使ったものであるらしい。

私には原画は描けなかったが、風景を描くのは得意だった。
特に夜景を描くのが好きだったので力を入れて描いた。
数ある風景の中でも大砲の発射シーンは入魂の作だった。
エンディングの夜景も私の描いたもので、
のちにMSX用になおした16色をフルに使った絵ではさらに美しく輝いた。

つぎ

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