No.19 児童公園エクスタシー
 
星空に半月。
そびえる葉桜は闇色の影。
苔の生えた地面。
50センチの植樹は水銀灯に照らされ緑色。
路地裏の小さな児童公園にいるのは、ジャージの僕と鈴木さんだけだ。
 
「座って」
 
僕は冷たいベンチに腰掛ける。
木製の座面はひんやりしている。
ジャージの繊維を通しておしりに気持ちいい。
 
「缶ジュース買ってくる、何がいいかな?」
「みかんジュースを」
 
鈴木さんは笑う。
 
「ヘンなの、待っていてね」
 
公園の向こうにある自動販売機。
鈴木さんはみかんジュースと缶ビールを買って戻ってきた。
 
「『なっちゃん』だね」
 
みかんジュースと言えば「なっちゃん」だ。
鈴木さんはベンチに座り、柔らかい身体を寄せてくる。
僕になっちゃんを渡すと缶ビールのプルトップを開ける。
慣れた手つきだ。
 
「乾杯ね」
 
鈴木さんが缶ビールを差し出す。
 
「かんぱい」
 
みかんジュースと缶ビールが鈍い音で当たる。
鈴木さんはノドを鳴らすようにビールを飲む。
三回ノドを鳴らす。
なんかオヤジみたいだけれど。
僕もみかんジュースを一口飲む。
 
「このビール飲みきれないな、めがねくん、一口どう?」
「はあ、ちょっとだけなら」
「半分くらい飲んで」
「そんなには…」
「交換ね」
 
みかんジュースを鈴木さんの缶ビールと交換。
 
缶ビールの口。
鈴木さんの唾液が付いている。
ビール特有のホップの香り。
僕は缶ビールの口に唇をあてるとビールを飲んだ。
僕も男だ。
三回ノドを鳴らす。
 
「飲めるね」
 
鈴木さんはうれしそうにみかんジュースに口を付け、一口のむ。
これは男と女の通過儀礼。
僕も一人前の男かな。
 
「もっと飲んでいいよ」
 
僕はさらに一口飲んだ。
全身がアルコールで熱くなる。
 
「なんか酔ったみたいです」
「面白いことしてあげる」
「なんです?」
 
鈴木さんはビールを口に含む。
そして僕のカラダを引き寄せると唇を僕の唇に押しあてる。
冷たいビールが唇のあいだから僕の口に入ってくる。
僕は大人になった気分。
 
「おいしい?」
「はい…」
「なんか酔っちゃった」
 
鈴木さんは立ち上がると真っ赤なジャージの腰に手をかける。
 
「脱いじゃおっと」
 
僕は腰を見つめる。
ジャージを脱ぐ鈴木さん。
中は短パン。
そりゃそうだ。
人通りで見せるわけがない。
鈴木さんはジャージを無造作にベンチにかけると
再び僕の横に座った。
あれ。
短パンの股はうっすら濡れている。
 
「汗だよ」
「はあ…」
「Hだな、めがねくんは」
 
いつもなら萎縮してしまう僕だけれど
夜空のビールは酔いが強くて笑みさえこぼれる。
そうか、僕はすけべだな。
 
「めがねくん、彼女とHしたことあるの?」
 
涼子さんのことだ。
 
「ないです…」
「そう」
 
僕は缶ビールを一口のむ。
あれ…
僕はみかんジュースのはずなのに。
 
「彼女と、してみたいでしょ」
「うーん…」
 
したいしたい、したいんだよ、どうせ僕は春先のオス猫だ。
 
「めがねくんなら、できるよ」
「それは無いと思います、涼子さんには彼氏がいるのです」
「涼子って、テレビの?」
「知っています?」
「シノハラだっけ?」
 
世代が微妙に違うなー。
 
「似たようなもんですけど…
 周りの人には内緒にして下さい。
 騒がれると本人がいやがります」
「めがねくん、やさしいのね」
「え、そんな…」
「彼女と、やっちゃいなよ」
「なぜです?彼氏がいるのに」
「関係ないよ、彼女はめがねくんのこと待ってる」
 
Hのことかな。
 
「一緒に住んでいるのは、めがねくんに抱かれたいからでしょ?」
 
違うと思う。
 
「そうか…、ふたりはいい仲なんだね…」
 
鈴木さん、涙目っぽい。
思いこみの強い人だなー
 
「僕は涼子さんとは関係ないです」
 
鈴木さんが僕に抱きついてきた。
どうしよう……
 
つづく
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